076 探求! ソードスキル
「この古びた剣って何から奪ったやつ?」
「それは確か動く鎧だったはず。何かあったときに投げつける用にしてるやつだね」
チビデブの小剣とどっちがどっちか分からなくなることもあるが、チビデブは『安物の剣』だったはずだ。予備武器にするにも弱すぎるため、わたしの中では使い捨てて構わない飛び道具扱いだ。
「これ攻撃力五百あるんだけど、投げつける用?」
「わたしのメインは攻撃力千五百だよ。他のメンバーも最低でも八百の剣とか使ってるし」
「それ、どこで手に入るの?」
「八百の剣は第一階層の裏ボス。動く鎧が二倍いて骸骨が鎧着てるくらいで、攻略法は表と同じ。場所知りたい?」
「むぐううう」
わたしとしては、裏ボスへの道は別に教えても構わないと思っている。ミスミストが悩むのはネタバレを聞いてしまうと『自分で攻略する楽しみ』がなくなってしまうからだろう。
「第四階層まで行けば、リザードマンの持っている剣は八百八あるよ」
「遠いよ! 第四階層は遠いよ!」
「第三階層突破するのに強い武器は欲しいんだよね。それはめっちゃ分かる」
「ちなみに千五百の方はどうやって?」
「そっちは初期ガチャ」
「なんだってぇぇ〜〜⁉ ︎」
大きな声を上げてミスミストは騒ぐが、『無傷の勝利者』の出る条件はアカウント作成から無傷であること、かつボス攻略済みだったはずだ。ゲームマスターの口振りだとさらにその上に剣王の条件があるらしいのだが、その詳細は不明だ。
その辺りを説明するとミスミストは頭を抱えて「あおあおあ〜〜」と変な声を出して身悶えする。そんな情報聞いたことがないなどと言われても、この情報は実はわたしを含めて四人しか知らない。
「まあ、裏ボスへのヒントは教えておくね。斧で壁を叩きながら歩けば隠し通路は見つけられるよ」
「斧なんて持ってないけど⁉ ︎」
そこまで何も知らずに、本当によくクランホームを入手できたものだ。その根性には逆に感心してしまう。
そんなことはともかく、ミスミストは第二階層のチビデブの巣に行くべきだ。その奥にあるものには触れず、第二階層にチビデブの巣があることを教えておく。クランメンバー全員で行けば、攻略自体は難しいものではないはずだし、斧や槍もいくつかは入手できるだろう。
そこで鍛冶工房を手に入れれば、少しは装備の強化もできるだろう。
「で、わたしも教えて欲しいことがあるんだけど」
「いやいや、ユズさんが知らなくて私が知ってることってあるの?」
「わたし、剣スキルの取り方知らないのよ」
「何でよ⁉ ︎」
第三階層をクリアして第四階層にまで踏み入っているのに、わたしは剣に限らず武器スキルを持っていない。ツバキやヒイラギの言では現段階では大したことがないらしく、なくても別に困らないという。だが、モンスター相手だとどの程度使えるのかも分かっていない。
「酒場のクエストだよ」
「酒場なんてあったんだ……」
「あるよ! 普通、あるでしょ⁉ ︎」
そんな気もするが、わたし、町の施設ってほとんど見てないかもしれない。プレイ開始して、ガチャも回さずに迷宮に突撃したくらいだ。
ミスミストに案内されていくと、路地を入ったところにバーの看板が出ていた。店に入って奥の方で酔いつぶれているオッサンに話しかけるとクエストを請けられるらしい。
「剣のスキル欲しいんですけど」
率直に尋ねてみると、オッサンは「アイツの仇を討ってほしい」と質問とは関係ないことを話し始めた。
「アレは他のデブリンとはまるで違った。見た目は同じだが、恐ろしい剣技を使うんだ。俺の相棒もそいつに殺られちまった……」
その後も話は続くが、要は第一階層の奥にやたら強いデブリンを倒してくれということだ。まあ、いくら強くてもチビデブはチビデブだろう。ミスミストに聞いてみると、そのチビデブがいるのはマップでいうと入り口からまっすぐ上の一番奥らしい。
「ほうほう、ありがとね。じゃあ、行ってみるよ」
「頑張ってねー」
ミスミストに別れを告げると『帰還の水晶』を使って一度ホームへ戻る。迷宮に行くにはホームからワープした方が早いのだ。マップを開き、道を確認して奥へと突き進んでいく。『無傷シリーズ』の装備は外してあるが、チビデブや芋虫は蹴散らして進むだけだ。
ボス部屋を迂回し曲がりくねった道を進んでいくと、言われた辺りに近づいてくる。そろそろ気をつけて行かないと、対象のチビデブと気付かずに通り過ぎてしまう可能性もある。
怪しいものがないか注意しながら進んでいると、奥の方から「ギャィィヤァァァァ!」と断末魔かと思うような甲高い叫び声が聞こえてきた。
何度も叫んでいるところからすると、断末魔ではないらしい。この声の主が死ぬときにはどんな叫び声を発するのか興味深いが、ちっとも聞きたいとは思わない。
声のする方に行けば良いのだから、分岐路も迷う必要がない。この辺りの道のつくりには全く記憶がないが、マッピングはされているので罠などもないはずだ。『雑木林』の誰かが塗り潰した道かもしれないが、第一階層で罠があったとは聞いたことがない。
最後の交差路を過ぎると、段々と道を幅が広くなっていく。そしてその突き当たりには、奇声を発しながら剣を振り回している二匹にチビデブがいた。要はアレを倒せば良いのだろう。剣で勝てとか言われたわけじゃないし、とりあえず『地雷』の魔法をぶちかます。
チビデブが「ギィイエェェェ!」と叫んで吹っ飛び、天井に激突してまた落ちてくる。まだ生きているところをみると、普通のチビデブより遥かに高いHPを持っていることが分かる。
だが、それも『無傷の勝利者』の前では虚しいものだ。地面に叩きつけられたチビデブに突き立ててやれば、それであっさりと絶命した。その間にもう一匹が足を振り上げて起きあがろうとするが、その動きは隙だらけだ。
「どありゃあ!」
叫んで繰り出したわたしの左回し蹴りは首のうしろを見事に捉え、チビデブは反撃に転ずる間もなく今度は壁に叩きつけられる。そして、振り向いた顔面に『無傷の勝利者』での突きが命中した
『蟻が十なら芋虫二十歳……』
わけの分からない台詞とともに剣士の亡霊が現れ、そして何処からともなく一枚の紙切れが舞い落ちてきた。
「ヴァセ、エイリエ、オレンソール、モノ、エックルリア! 死ね! 幽霊!」
イベントキャラのような気もするが、幽霊はモンスターの一種だ。迷宮で出てきたら攻撃するに決まっている。『炎の槍』の直撃を受けてHPを大きく減らしているが、まだしぶとく生きている。剣を振り回してみるが、やはり実体がない幽霊には効かないらしい。ならば次は電撃だ。
素早く詠唱して魔法をさらに放ってやるとHPがさらに減るが、まだ倒すには至らない。攻撃を受けて怒ったのか、あるいは痛みでもあるのか、幽霊は「おおおおああああああ! !」と恐ろしい声で咆哮をあげる。
だが、反撃など待ってやらない。最後に氷の槍を叩き込んでやったらHPがゼロになって幽霊は虚空に消えていった。
「よっしゃ、勝利!」
軽くガッツポーズを取り、わたしは地面に散らばる紙を拾い集める。落ちてきたのは一枚だったと思ったのだが、いつの間にか増えている。数えてみると、三十七枚もあった。
『剣技 パワースラッシュ』
『剣技 ローリングスラッシュ』
『剣技 スラスト5』
紙に書かれている内容を読んでみても何も起こらなかった。スキル名と、必要なクールタイム、技の効果が書いてあるだけだった。これをどうしたらスキルを得られるのか知らないが、とりあえず、町に戻ることにした。普通、クエストは報告したときに完了するものだ。チビデブと幽霊を倒した時点で完了というわけでもないだろう。