035 回収! アイテムドロップなんだからね!
「あ、剣はまだ拾わないでね」
その前に他に取れる物が無いか確認しないと。インベントリを開いて鎧のパーツを突っ込もうとしてみるが、どれも回収不可能なようだ。まあ、剣が取れるだけでも良いか。
伊藤さんが要らないと言うので、大剣はツバキに任せて骸骨へ向かう。
さて、こちらは鎧は奪えるのだろうか。試してみたらガントレットはインベントリに入った。
「みんな、こいつの鎧は取れるみたい。身包み剥がすの手伝って」
「どこの強盗だよ」
「強盗言うな」
「そうだよ、こういうのは追い剥ぎっていうんだよ」
やめんか。それでは、まるでわたしが極悪人のようではないか。これは、云わばドロップ品の回収だ。それを追い剥ぎとは、失礼ではないだろうか。
試してみると、兜も靴、それに腰や胸の鎧も全部取れた。
「これ、誰が着るんだ?」
「誰も着なかったら、溶かして材料にするか誰かに売れば良いんじゃない?」
骸骨が着ていたなんて言わなければ立派な鎧なのだから、売れなくはないと思う。
最後に剣と盾を回収して奥の小部屋に向かう。十個の名前付きの宝箱がスポットライトに照らされているが、この数になると、スポットライトはやめたほうがいいと思う……
わたしの宝箱には『無傷のチュニック』ということで、白を基調として裾に草の模様の刺繍が入った綺麗な服だ。
他にはお金が千五百Gに、安物の水晶、メダルが三個だ。
みんなの装備品もそこそこの物がでているようだが、伊藤さんはやはり「いらないものしか出ない」と首を横に降る。
出たのは『剣王の鎧』らしいのだが、装飾が華美すぎて目障りらしい。着て見せてもらったけど、青をベースに派手な金や白の装飾がゴテゴテと施されていた。
「カッコいいじゃん」
「こんな目立つの嫌よ。壇に上がって演説するには良いかもしれないけど、洞窟で戦うのにこれはないでしょう」
男性陣の評価は高いが、伊藤さんはとても不満そうに言う。まあ、伊藤さんの意見は分からなくもない。歴史的にも儀礼用と実戦用は別物だ。「カッコいいけど、役に立たない」なんて観賞用の武器とかも現実にある。
「ところで、さっきの骸骨の剣は誰が使う?」
とりあえずみんな揃って伊藤さんの方を向く。けれど、伊藤さんには『剣王の双翼』がある。たぶん、あっちの方が上じゃないかな。
インベントリを開いて剣の情報を見ると、攻撃力は八百だ。それなりに強いが、『剣王の双翼』は千八百くらいだったはずだから、全然下だ。
「伊藤さん的に欲しい? これよりそっちの、今使ってる剣の方が遥かに良い剣だけど」
「剣は要らないわ。盾の方は昨日のと比べてみたいわ」
ということで、先に盾を渡すが、伊藤さんは左右に装備してみたかと思ったら、あっさりと骸骨の盾を返してきた。
「大きさも重さもほぼ同じなら、数値が上の方が良いんでしょう?」
昨日奪った『赤の盾』は防御力が一千三百なのに対し、今回の『骸骨将軍の盾』は八百しかないと言う。……あの骸骨って将軍だったのか。剣の名前、全然見てなかったよ。
「八百が弱いのかよ……。俺の盾は六百五十だぜ?」
ツバキは愕然として言うが、世の中そんなものである。彼の今回の撃破報酬装備は『方盾』だったようだが、強さは『そこそこ』といった様子だ。
結局、相談の結果、『骸骨将軍の剣』はツバキが『骸骨将軍の盾』はヒイラギが持つことになった。二人が元々持っていた盾はセコイアとサカキに渡される。
尚、骸骨将軍の鎧の方は希望者なしだ。骸骨が着ていた鎧なんて気色悪くて嫌だよね。わたしも嫌だ。
「ところで、メダルの数の差って何だろう?」
わたしと伊藤さん、それにキキョウは三枚、他の人たちは二枚だ。『安物の水晶』とお金はみんな同じだし、何かの差があるはずだ。
「ノーダメージボーナス以外にないよね。わたしと伊藤さんとキキョウって、今までずっとノーダメージなのよ」
「は? ずっと?」
ほとんど伊藤さんのお陰なんだけどね。ヤバかったところを伊藤さんに助けられたのは一度や二度じゃない。今回だって、伊藤さんがいなければ、確実にダメージを受けていただろう。
鎧の半数以上を伊藤さんが倒してるからなあ。わたしは十一だから、伊藤さんの撃破数は二十一だよ。骸骨入れて二十二。それだけで実力の差が分かると言うものだ。
「でも、俺も第二階層ではメダル三枚出てたぞ?」
「じゃあ、ノーダメージボーナスは階層ごとなのかも? 初回ボーナスと違って、誰でも狙うチャンスがあるようになってるんでしょ。きっと」
話しながら裏ボスの小部屋を出て階段を下りていくと、すぐそこにボスの扉があった。
「マジでボス連続かよ!」
ツバキが叫ぶが、第二階層の裏ボスの後は第三階層のボスの前に出るって言ってたし、そういう仕様なんだろう。
今回はみんな第二階層の表ボスはクリアしているし、運営からも待ったがかからなかった。先にクリアしておいて良かった。
「第二階層はサメだっけ?」
「そうだね、この人数で行くと五匹か。ちょいキツイね。三匹をスタンして、一匹を伊藤さんがやるとして、もう一匹を誰がどう相手するか」
わたしひとりだと少々荷が重い。以前は上手く勝てたけど、あれは偶々上手くいっただけだ。次も勝てるとは限らない。
「盾持ちで囲めば何とかならないか? 二発目の電撃まで何秒か持ちこたえれば良いんだろう?」
盾持ちは四人になっている。ツバキとヒイラギに加え、サカキとセコイアも盾を持っている。まあ、セコイアは電撃要員だけど。
ツバキの提案にヒイラギとサカキも頷き、みんなで行くことになった。
予定通り五匹のサメが出現し、すぐに電撃が飛んで三匹が地面に落ちる。そして、無事な二匹のうち一匹に伊藤さんが向かい、瞬殺した。
あれ?
すぐに踵を返し、伊藤さんはもう一匹を沈める。
あれれれれ?
ツバキたちもやることが一瞬でなくなり、呆然としている。その間にわたしは、電撃を食らって気絶しているサメのヒレを切り落としていく。
「トドメお願い」
わたしの言葉に我に返って、ツバキたちは気絶したサメのタコ殴りに参加する。
「俺たち要らなかったな」
「伊藤さん強すぎだってアレ」
無事に五匹のサメを倒しはしたが、なんか釈然としない。ボス部屋に入る前にはかなりビビッていたのに……
「早く第三階層いこうぜ」
「少しでもマップ埋めて行きたいしね」
ツバキとヒイラギは張り切って撃破ボーナスの宝箱を開けて、さっさと奥の階段に向かう。だが、生産組はここでパーティーを抜けてクランホームに戻る。情報を集めたり、剣の生産や強化を頑張ってみるということだ。
「よっしゃ、特訓の成果を見せてやるぜ」
「そんなすぐに強くなれるものではないわ。意気込むのは良いけれど、油断は禁物よ」
そんなことを言っていても、クマが実際に出てきてみれば分かる。ツバキとヒイラギの動きは以前から較べると格段に良くなっている。伊藤さんがいなくても勝てるかも知れないぞこれ。
戦いが終わると、ツバキは毎回、伊藤さんに所感を求める。それに対し伊藤さんは、良かったところ、ダメなところを結構具体的に指摘してくれる。
そうやって枝分かれする道を進んだり戻ったりしているうちに、段々と戦いがスムーズにできるようになってきた。背後からの攻撃も散発的にあり、挟撃もしてくるがそれでもきっちり対応できている。
実戦形式でやっていくと成長は早いものなのだろうか。
いや、違うな。改善サイクルが恐ろしく速いんだこれ。わたしたちの学習能力じゃなくて、伊藤さんの指導能力の高さに由来してると言えるだろう。