019 突破! 次は第三階層だ

「じゃあ、ちょっと装備修正……、せずに行ってやる!」

マントを外そうかと思ったけど、無傷シリーズを狙うんだ。ノーダメージか死か。分かりやすくていいではないか。

「みんな、準備は良い?」

言ってるそばから、伊藤さんが扉を開けていた。気ィ早ッ!

「先手必勝!」

叫んでボス部屋の中へと飛び込んでいく。キキョウも詠唱しながら後ろから続いてくる。セコイアは電撃杖を振るだけなので詠唱は要らない。

「あれ? ここもサメ?」

またかよと思いつつも、わたしは右側のサメに向かう。伊藤さんは左側だ。って、二匹しかいないよ?

空中を泳ぎ突進してくる二匹のサメに電撃が当たり、そのまま地面に落ちていく。

えええええ。これ、弱すぎじゃね?

気絶したサメなど何も怖くない。ヒレを切り落としたら滅多斬りにするだけだ。

「あ、死んだ」

後でセコイアが呆れたように呟くのが聞こえた。魔法使い二人は、最初の電撃以外にやることがない。伊藤さんもつまらなさそうに舌打ちしている。ヒレだけ忘れないように回収してサッサと奥に向かう。

「Congratulations! 第二階層クリア者に特典が贈られます」

ファンファーレとアナウンスが鳴るが、嬉しみは全くない。裏ボス先に倒しちゃったし、それの数が少ない版となれば、ボス撃破の喜びは全然ない。サッサと宝箱を開けて次に向かおう。

どれどれ。『無傷のスカート』『安物のエメラルド』そしてメダルが三枚にお金が二千五百ゲー

これで裏ボスと合わせて、四人の所持金合計が二万八千ほどだ。目標金額はとりあえず十五万。一気に近付いたし、気合を入れて素材を集めたりボス周回していれば、数日でクランホームを買えるだけの金額が貯まりそうだ。

装備品に出てきた『剣王のブーツ』を本気で「要らない」と言っているあたりが伊藤さんだ。セコイアの装備品は『青の魔法衣』と魔法使い系なのは分かるんだけど、キキョウは『芽吹きの手袋』と生産職人系のものだ。前回の系統そのままということだろうか。一体、どうやって決まっているのか謎である。

本人は生産職は望むところらしいので喜んでいるから、まあいいか。

「さて、八時半まわってるけど、伊藤さんはもうちょっとやっていく?」

「そうね。全然戦った気がしないわ。次のボスまでどれくらいかかるかしら?」

「十分や二十分じゃ、さすがにボスまでは着かないと思うよ。少し第三回層覗いていこうか」

特に誰からも反対はなく、第三階層へと向かう。小部屋の奥の出口から階段を降りていくと、洞窟に続いていた。

穴を掘ったというよりも、岩に巨大な裂け目ができたと言った方が正しいような感じだ。道幅は五メートルほどあり、断面が三角形になっている感じだ。足下も壁もゴツゴツとした岩で足場は悪く、とても歩きづらい。

そんな裂け目が曲がりながら続いているかと思ったら、枝分かれもしていた。

「これは面倒そうだね」

「へえ、中々面白い趣向ね。そこに不意打ちの脇道があるわ」

伊藤さんがそう言った直後、剣で指した岩の陰から真っ黒なものが飛び出してきた。

だが、既に見破られているのだから、不意打ちになっていない。完全に相手の動きを予測しきった伊藤さんの斜め下から切り上げる一撃で黒いモンスターはHPの大半を失い、続けて放たれた突きで絶命する。

わたしと違い、伊藤さんの二刀流は流れような連続技である。参考にしようにも、レベルが違いすぎてどうにもならない。

「何だろう? 今の」

「クマっぽかったけど」

薄暗い中、瞬殺されてすぐに消えていくモンスターは獣型の何か、くらいしか分からなかった。サイズ的に大きな犬かクマかといったところだ。

「あ、上にもいるみたい」

伊藤さんの索敵能力はどうなってるんだ? 片っ端から近くに潜むモンスターを見つけていく。そういえば、この人、真っ暗闇でもノーダメージで勝てるんだっけ。

伊藤さんの指した方向に向かってセコイアが電撃を放つと、短い悲鳴が上がって黒い塊が落ちてきた。だが、気絶したわけではないようで、すぐにこちらに向かって突進してくる。

が、そこを低く構えた伊藤さんが迎撃する。裂帛の気合を込めた技が炸裂し、一瞬でモンスターのHPはゼロになった。

「あれ? 消えないよ?」

「どこか切り落としたの?」

周囲を警戒しながら倒れているモンスターをひっくり返すと、その下に切り落とされた手首が転がっていた。驚くべきは伊藤さんの剣技だが、もう一つ驚くものがある。

転がっている手首から生えた爪だ。長さ二十センチほどもある巨大な五本の爪に襲われたら、タダでは済まないだろう。

本体を見ると、失くなっているのは右前足だ。左足も切って……、切れねえ! 伊藤さんこれどうやって切ったんだ?

「伊藤さん、これ、左足も切れる?」

お願いしてみたら、伊藤さんは簡単に切り落とした。なんで? ついでに後ろ足も切り、腹を掻っ捌く。あ、きもも採れるのか。

回収してみると『アクマの大爪』『アクマの肝』と出た。これは悪魔なのかア熊なのか。ネーミングセンスに愕然としてしまう。ちょっと後であのゲームマスターを問い質さねばならない。

「後ろ!」

「え?」

伊藤さんが叫び、わたしは振り向きながら横に跳ぶ。

その横を通り、セコイアとキキョウを半ば突き飛ばすように退かせて走り、伊藤さんが剣を閃かせる。瞬殺する中でも狙っているのか、アクマの手首が一つ転がっている。

急いで解体を済ませて、伊藤さんは辺りの警戒をする。壁の穴は分かる範囲でも四つある。どこからまたクマが出てくるか分かったものではない。

「そろそろ時間かな?」

時計を見るともう二十時五十分を過ぎている。

「そうね。今日のところはこの辺にしましょうか」

伊藤さんは一日二時間のスタンスは変えるつもりがないようだし、一度、みんなで町へと戻る。伊藤さんは今後もしばらくはこの時間帯にログインするつもりだということで、セコイアとキキョウともフレンド登録をしてログアウトしていった。

さて、これからどうしよう? 伊藤さん抜きであのクマと戦っていける気がしない。第二階層のモンスターを狩って、お金と経験値を稼いでいくのが順当だろうか。

「お金を稼ぐにしても、もうちょっと人数欲しい気がするなあ」

「パーティーメンバー募集してみます?」

「さっきのクマの素材の値段もしておこうよ」

ということで、「クランメンバー募集中」と叫びながら道具屋に向かう。けど、みんな逃げて行く。何故?

「どれどれ、『アクマの大爪』は、一個八十Gだって! フカヒレは一つ百八十G。さすがボスだね」

値段だけ確認して、とりあえず売らずにとっておく。サメやクマは、深海魚と違って、今のわたしたち三人だけでいくらでも狩れるというものではない。何かの材料に使えるかもしれない。現実ではフカヒレは希少な食材だ。

「パーティーメンバー集めるなら神殿前広場か市役所かな?」

「パーティーっていうか、クランメンバーかなあ? あ、二人とも一緒のクランでやらない? 嫌なら無理強いするつもりはないけど」

改めて尋ねると、二人は即答で了承してくれた。そして、とりあえず神殿前広場でメンバーを募集してみることにした。数分、募集して誰も来なかったら諦める。募集の仕方を考え直す必要があるだろう。

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