14話 勇者、誕生

やあ! はじめまして!

私はパンツ。語り部さ。

今まで実況していたデュニラハって神様は急用ができたとか言ってね、私が任されることになったんだ。

今後、よろしくね!

さて、ヒグマの木村はね、あれ? 木村のヒグマ? どっちだっけ?

まあいいや。

魔王を食べた木村はね、その後、町に行って、住んでいる人たちを皆殺しにして食べちゃったんだ!

なんてひどいヤツだろう!

おかげで、閻魔大王様はもう、カンカンさ。

デュニラハに責任とってどうにかしろって、神界、神様の世界から追い出しちゃったんだ。

「やべえ、どうしよう。やべえ、どうしよう。」

デュニラハは途方に暮れちゃっているけれど、実はやる事は一つしかないんだよ。

これを読んでいるみんななら分かるよね!

魔王を食い殺した化け物の討伐。それはもう『勇者』の仕事さ!

「くそう。仕方が無い……」

デュニラハは呟いて、ある男の所に行ったよ。

「目覚めよ、水島よ。」

「何ですか? せっかく気持ちよく寝ていたのに……」

突然部屋に現れたデュニラハに、水島は特に驚くのでもなく文句を言っている。なんだかよく分からないやつだけど、この男が勇者なのかな?

「お前に木村の討伐を」

「嫌ですよ。何で僕がそんなことをしなきゃならないんですか……」

水島は話もロクに聞かないで、あっさりお断りしちゃった!

「いや、聞け、水島よ。勇者となって、地獄で暴れる」

「ご遠慮します。どうか、他の人を当たってください。」

「聞けと言っておるのだ! さっさと地獄に行って木村を倒して来るが良い。」

「嫌ですよ! 絶対、地獄になんて行きたくありません!」

「木村をどうにかできるのはお前しか」

「戦いたくないでござる! 絶対に戦いたくないでござる!」

水島はそう叫んで布団をかぶっちゃった。

「言うこと聞けや!」

「それはこっちのセリフですよ! 断ると言っているでしょう!」

「木村を倒してくれないと困るんだよ!」

「知りませんよ。僕は困りません!」

水島もデュニラハも自分の都合しか考えていないから、いくら言い合ったって平行線のままだね。

「明日も仕事なんです。もう帰ってください。」

水島は布団から出てこようともしない。そうしたら、業を煮やしたデュニラハは強硬手段に出たんだ!

なんと、台所から包丁を持ってきて、布団の上から水島の胸を一突きさ!

いや、めった刺し! 気が狂ったようにざっくざっくと刺しまくってる!

なんて酷い神様なんだろう!

「はぁ、はぁ、はぁ。ツベコベ言ってないで、さっさと地獄に落ちろや!」

ぴくりとも動かなくなった水島に向かって唾を吐きかけてるし。

もう絶対、このデュニラハは邪神ってやつだね!

――やあ、よく来たね。水島くん。

ここは上も下も無い真っ白の空間だ。でデュニラハが水島の魂に呼びかけているよ。

「姿を現せ! ヘタレ神が図に乗ってるんじゃねえぞ!」

ありゃりゃ。水島は激おこだよ! そりゃそうだよね。殺されちゃったんだから!

――ふふふ。お前さんには二つの道を用意して

「極楽行きで。」

まちがって、いつものセリフを言いかけてしまったデュニラハに、水島は即答した。

――待て! 今のは間違いだ!

「うるさい。極楽行きで。」

本当に話が進まないなこの二人は!

ってことで、ちょっと省略するよ!

地球時間で五時間くらい言い合いをしていたんだけど、水島が出したいくつかの条件を呑むことで落ち着いたんだ。

その条件は、第一に、討伐のためのチート能力を与えること。

第二に、討伐が終わったら、ちゃんと生き返らせること。

第三に、報酬として五千万円を支払うこと。

世の中、結局、お金だね!

そして、やっと、勇者水島が誕生したんだよ。無駄に長かったね! 私も疲れちゃったよ。

地獄の辺境に立つ水島は、チートとして神槍を持っているんだ。

この槍は穂先をマシンガンのように撃ち出せるんだよ! 凄いね!

でも、残念ながら、一瞬で13キロの長さに伸びたりはしないみたいだ。

「で、これからどうすれば良いのよ?」

水島が呟くけど、返事は無かった。

「おい! 木村はどこにいるんだよ! 弱点とか教えろよ!」

水島は虚空に向かって怒鳴っているよ。

傍から見たら変なヤバいひとだね。こんな人に近付いちゃダメだよ!

何の返事も無いから、仕方なしに水島は当てずっぽうで歩き出したんだ。

でも、勘が良いのか、町の方に向かっているんだ。さすが、勇者様は違う!

一時間も歩いていたら、町が見えてきたよ。

「すみません、ちょっとお聞きしたいんですけど、ちょっと良いですか?」

水島は、道行く人に木村のことを尋ねてまわっているよ。でも、みんなあまり知らないみたいだ。

東に行くと大きな町があるから、そっちへ行って聞いてみた方が良いみたいだね。

「ところで、腹減ったんだけど、飯食えるところあるかな?」

「だったら、大森屋が美味いぞ。」

ということで、水島は噂の大森屋にやって来たんだ。

ここの定食は味が良い上に、大盛らしい。大森だけに。

水島は日替わり定食を平らげたら、席を立って店を出ようとしたんだ。お金も払わずに。

「おいおい、お客さん、お代六百円ですよ。」

店の旦那さんが水島を呼び止めた。まあ、当然だね。

けど。

「は? 僕、勇者なんだけど? 世界を救う勇者からお金を取るの?」

神槍を突きつけて脅すんだ! びっくりだよ!

そんなの勇者っていうか、食い逃げ居直り強盗じゃないか!

突然、刃物を突き付けられた親父さんは真っ青さ。

口をパクパクさせていたら、水島はさっさと行っちゃったよ!

マジで食い逃げかよ! ドン引きだな、おい。

そして、水島は東の町に向かって行った。

チート能力を得た水島の足は比較的早いみたいだ。

小走り程度だと全然疲れないことに気付いたみたいで、軽快に走っている。

時速にすると、だいたい、時速十五キロくらいだね。世界的なマラソン選手ほどじゃあないけれど、このスピードを維持できるなら、フルマラソンは三時間はかからないくらいだよ。

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